子どもの権利条約31条の会

子どもの権利条約31条の会は

※「子どものしあわせ」9月号より転載

増山均

(31条の会共同代表)

はじめに

 昔から、子どもがすくすくと育つために「よく遊びよく学べ」が大切だと言われ続けてきました。しかし「学び」の大切さについては、山ほど語られてきましたが、《遊び》の大切さについては、後回しにされていると思います。「学び」の方が主役で、遊びは学びという目的のための手段のように扱われています。しかし《遊び》が子どものとって不可欠の権利であることが、わが国の「児童憲章」(9)にも、国連の「子ども権利条約」(31)にも、明記されているのです。

 

   遊びは子どもの主食です!―「31条の会」のとりくみ

子どもの豊かな成長・発達を保障する「子ども期」の充実のためには、子どもの遊びと文化は不可欠の権利であり、特に「遊びは子どもの主食」なのです。

 私たちは、「遊びは子どもの主食」であること知らせていくために、子どもの権利条約31条の精神に学び、子どもの遊びと文化の権利を重視する「31条の会」を立ち上げ、31条をひろく普及し、活用する取り組みを進めています。

31条の会」(梶原政子・増山均共同代表)は、いま児童館の職員、保育士・学童保育の指導員、子ども劇場や文化芸術団体の関係者、プレイリーダー、子ども食堂のボランティア、大学生、研究者等、子どもに関わる仕事をしている人々が参加し、2か月に1回程度のゆるやかで自由な交流会を続けています。また「子どもと文化のNPOArt.31」(大屋寿朗代表)とのコラボレーションにより、31条の内容と意義を分かりやすく紹介した本やブックレットなどの出版活動も行っています。また「子どもの権利条約市民NGOの会」(堀尾輝久会長)における「子どもの生活部会」として、国連への報告書作成や、国連からの勧告文書の分析と普及も行っています。

 

    子どもの権利条約第31条と子どもの文化権

国連子どもの権利条約(1989年採択)の31条には、①休息・余暇の権利、②遊び・レクリエーションの権利、③文化的生活・芸術への参加の権利という3つのレベルの権利が規定されています。この相互に関連する3つの権利を総合して《子どもの文化権》としてとらえ直すことが重要だと考えています(詳しくは『子どもの文化権と文化的参加』佐藤一子・増山均編著、1995年参照)。

わが国には、子どもの生存と生活の権利を保障するために「児童福祉法」(194712)等がつくられ、また同時に子どもの学習権・教育権を保障するための「教育基本法」「学校教育法」(いずれも19473月)等がつくられています。子どものいのちと暮らしを守る福祉、体と心と知恵の発達にかかわる教育を受ける権利については、基本的な法律がつくられていますが、残念ながら子どもの文化権にかかわる基本法は作られていません。しかし、国連子どもの権利条約の31条には、日本社会に欠落している《子どもの文化権》が明記されており、日本政府がこの条約を批准(1994)したことにより、子どもの文化権の規定は、日本社会にも適用される子どもの権利となっているのです。

 

   国連とつながり子どもの文化権を普及してきた

子どもの権利条約が国連で採択され、日本政府が批准したことにともない、批准国政府には国連への報告義務(44)が生まれました。国連子どもの権利委員会は政府のみならず市民・NGO/NPOからの報告も歓迎するということから、批准2年後に(その後は5年ごとに)報告書の作成・提出が続けられています。第1回目の報告書(1996年)を提出する際に、「市民NGO報告書をつくる会」(現在は「子どもの権利条約市民NGOの会」が発足し、子どもの遊びや文化に関心を寄せるメンバーが集まり、条約31条に関する報告書を作成して国連に提出し、国連への市民NGO報告書づくりに貢献してきました。

国連での審査を経て、日本政府への「最終所見(国連勧告)」がだされますが、上記メンバーが中心になって、継続的に31条の問題を深め、普及することをめざす恒常的な会(「31条の会」)が生まれたのです。「31条の会」は、その後26年間にわたって取り組みを継続し、今日までに4回、31条に関する報告書をまとめて国連に提出し、メンバー有志がジュネーブでの国連審査にも参加するともに、国連勧告を読み解き、31条の内容を実現するとりくみを進めてきました。

 

   立ちはだかるコロナ問題と遊びの追求

この間、コロナ問題に関する独自の声明(46日付)や子ども向けの絵本やポスターの発行、出版、各種集会への協力・共催、さらにはオンラインセミナーなども開催してきました。

新型コロナウイルスは、人と人との接触により感染が拡大するため、密度の濃い接触(3)を避けねばなりません。幼い子どもの「じゃれつき遊び」など、遊びは本質的に子どもの同士の親密なコミュニケーションによって成り立ち、親密なコミュニケーションを通じて、子どもの人間性・社会性が獲得され、子どもは人間になっていくのです。

子どもが遊びを失うということは、人間としての発達の機会が奪われるということであり、それは最も深刻な子どもの人権侵害です。子どもたちは、学校の休校措置により、学びだけでなく「遊び」と仲間関係を失い、学校が再開されてからは、「勉強の遅れを取り戻す」ことが最優先課題となり、人間喪失の原因となる「遊び」の回復が叫ばれていません。「31条の会」は、「遊びをやめない、つながることをやめない、工夫しながら実現していく」ことを強く呼びかけています。(コロナポスター参照)

 

   31条ムーブメントを確かなものに

子どもの権利条約31条は、国際社会においては‟忘れられた条文“と言われる時期がありましたが、IPA子どもの遊ぶ権利のための国際協会)等の努力によって、内外で31条に関する関心が高まってきています。

 「31条の会は」、日本小児科医会による「遊びは子どもの主食です!」キャンペーン、東京おもちゃ美術館による「31条シンポジウム」、子どもを守る文化会議(第65回)による「31条って、なあに?」講演会、熊本県子ども劇場連絡会による31条講演会とワークショップの開催に協力して来ました。わが国でも、次第に31条への注目が高まってきており、豊かな子ども期・子ども時代を保障するためには31条が不可欠であることが知られてきています。

こうした流れを受けて、「31条の会」は、今年の6月から7月のかけて3回にわたるオンラインセミナーを開催するとともに、927日には、31条に関心を寄せる関係者・団体にさらに広くよびかけて31条のひろば(外部ページにリンク)」(オンライン)を開催して、子どもの遊びと文化に関するとりくみを交流し、31条の意義をさらに広げ・活用するための国民的ムーブメントを準備しているところです。

多くの皆さんが、「遊びは子どもの主食です」の31条ムーブメントに参加していただけることを期待しています。

 

おわりに

ゆっくりさせて! のんびりしたいよ! いっぱい、いっぱい、あそびたいよ!分かるように教えてよ!日本中から、子どもたちの叫び声が聞こえてきます。競争的な社会と教育制度の下で、さらにはコロナ禍の中で、からだとこころにストレスをいっぱいため込んでいる日本の子どもたち。

子どもたちは現在の社会の構成員であり、未来社会の担い手です。まだ成長途上ですから失敗したり間違ったり、理解や配慮が行き届かなかったりすることもあるでしょう。しかし、時に素晴らしい発想や行動力を示すエネルギーを秘めています。子どもたちは家庭や社会環境の制約を受けながらも、一生懸命生きています。子どもたちを一人の人間として尊重し、子どもたちの声にじっくりと耳を傾け、一緒になって、子どもにとって一番いいことを考えあい、共に行動していきたいと思います。

今こそ、子どもの権利条約の具体化を!31条を子どもたちの手に。皆さん、ごいっしょに。